若手の理学療法士の方へ①

日記
10 /04 2014
理学療法士の若手の方へ①「2つの立場」

私は臨床17年目の理学療法士です。今まで大学病院、クリニック、老人保健施設、訪問リハ、デイサービスと理学療法士が活躍する分野ほぼ経験してきました。その中で、理学療法士の仕事とはなにかを常に考えてきました。そして自分なりではありますが、見えてきたことがあります。それを僭越ですが、お伝えしたいと思いこういうメッセージを書きました。個人の意見ですから異論もあると思います。特に若い方に、僕の様に苦しむ時代を過ごしてほしくないので、参考になれば幸いです。


まず、理学療法士の立場には大きく分けて2つあります。1つは治療家です。療法士という名のように、先天的にせよ後天的にせよ、障害を負った方、怪我などで一時的に機能障害を負った方に対して、物理的にせよ徒手的にせよ様々な手法を使って治すために治療する立場です。このためには、治療技術の向上に臨床経験の積み重ねが必要です。理学療法には様々な技術が存在していますので、皆さんもこれから多くの技術を身につけることだと思います。
もう1つの立場は支える立場です。現代の医療では治すことの出来ない難病や、先天的な障害、そして避けることの出来ない老い。この方達に対して、二次的な障害を予防するために支えていく立場です。ここでは、治療技術も必要ですが、それ以上に人を支える人間力が必要です。人間は一人では生きていけません、障害を持っていればその程度が大きくなります。理学療法士としてだけでなく、その患者さんのご家族やご友人、また同じくその患者さんに関わる他職種の方達とのコミュニケーションが大切になります。互いを理解し、生きることの意味を考え、それぞれの価値観を尊重し、支える、そばにいることで、より健やかな人生を送れる様にする立場です。
この2つの立場は、同じ理学療法士ですが、大きく違う価値観です。そして、この2つの分類で分けきれない場合もあります。患者さん本人の意思と、ご家族の意志との乖離や、個人の価値観と社会の価値観の乖離など。それこそ、本来は十人十色の状態、価値観に対して、関わっていかなければなりません。時には、それは辛く、理学療法士として割り切るような感覚を持たざるを得ないこともあるでしょう。現実は理想通りだけではありません。ただ、この2つの大きな異なる立場があることを知っておくだけで、実は大分自分自身は軽くなります。その利点を少しお話しします。

先ずは、関わっている患者さんに対して、自分は治そうとしているのか、支えようとしているのかを考えてみて下さい。治そうというのは、正常にすることです。ということは正常に戻ることが可能な方ということになります。例えば、20代の腰椎捻挫の方に対して、原因となる重心の偏位や、歩行の特徴を是正して、正常な状態に戻すことは可能でしょう。正常に戻れば理学療法士として関わる必要はもうないでしょうあ。では、80代の脊柱の変形が強い方に対して、同じ腰椎捻挫を完全に取ることは可能でしょうか?正しい歩きの獲得は可能でしょうか?おそらくかなり難しいでしょう。このように、同じ疾患であっても対象によって「治す」と「支える」の2つの立場になることが分かります。ご高齢な方や骨格変形の強い方に対しては、「支える」つまり継続的なコンディショニング、フォローが必要ということです。そこで治すことに固執すると、お互いに不必要な期待をし、でも治らないというフラストレーションの場所になってしまいます。治すという姿勢はあってもいいのですが、中心の立場は支えるということが分かっていると、そのようなフラストレーションで悩まなくても大丈夫なります。ちなみに、支えるという立場は単に何もせず話を聞くだけという訳ではなく、対象者の人生をより健やかにするために、ありとあらゆる策を講じるということです。それは、理学療法という狭い範囲では対応できません。人間としての人生経験、愛情、創意工夫などが必要です。また、支えるとは一生支える、付き合うという覚悟もいります。それは、簡単に出来ることではありません。現状をどうにか過ごせばいいということではなく、これからの人生を専門家として、良い助言者としてしっかりと支えるという立場です。

このように、治す立場でも支える立場でも生半可な覚悟ではありません。それがプロフェッショナルです。ただ、対象者によってその立場を見極め、どういう立場で専門家として向き合うかということを明確化するからこそ、患者さんともしっかり向き合えるのです。よく、様々な講義後に若手の療法士の方々から、自分の患者さんに対してどうやって治したらいいか悩んでいると質問を受けます。その時に、そもそも正常にするつもりなのか、正常にはならないけど、支えていくという立場どっちですか?と訪ねるとよく分からないというような返答を受けます。そして、多くは、正常にならない方を必死に、正常にしようとして困窮していることが多いです。

この2つの立場を明確化するためには、必要なことがあります。とても当たり前のことですが、以外と多くの理学療法士が出来ていないことです。それは、本当に正常のことを知っているか?ということです。簡単に言えば、自分自身は正常なのか?ということです。ROM、MMTのノーマルが正常なのでしょうか?正常歩行の定義は何でしょうか?正常な呼吸機能とは何でしょうか?自分は正常でしょうか?なぜ、機能障害が起こってしまうのでしょうか?それが、分からなければ、治る方か治ることは出来ないが、軽減する、コンディショニングで状態を維持することは出来るという方なのか見定めることは出来ません。


私は現在、予防運動療法研究会を主宰しています。この中では、正常とは何か?機能障害の発生機序は何か?そして、障害を起こさないための予防的な関わりをどうやっていったらいいかを学んでいきます。また、正常を知ることで、治療方法も既存の様々な方法とは一線を画すものを作り出すことが可能になります。2つの立場をぜひ、明確にしてもらって私は若手の頃に陥ったフラストレーションの時間を有効な学びの時間に充ててほしいと思います。研究会に興味のある方はぜひ以下のHPをご覧下さい。
http://www.yobou-pt.com

私自身の活動に付いては、八王子のスタジオ「TAKT EIGHT」のHPを確認下さい。様々なWSや講習会を行っています。
http://www.takt8.com

最後に。理学療法士は、もっともっと社会に貢献できます。幸せに出来ます。そして、理学療法士として活躍している、活躍する方々自身の人生もぜひ楽しみとやりがいに満ちたものであってほしいと思っています。自分自身をまず正常に!そして、自分自身を幸せに!そしてその、正常と幸せを広めていきましょう。

理学療法士 中村尚人
(株)P3代表取締役、(社)日本ヘルスファウンデーション協会代表理事、予防運動療法研究会主宰
ヨガインストラクター、ピラティスインストラクター
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中村尚人

医療とボディーワークの融合を試みていきます。
自分の身体の声に耳を傾け、対話をしましょう。

~資格~
Yogaインストラクター
Pilatesインストラクター
理学療法士
シュロス®セラピスト
介護支援専門員
福祉住環境コーディネーター2級

~所属~
日本理学療法士協会
日本人類学会

~雑誌~
「ヨガジャーナル」
「ヨギーニ」
「日経ヘルス」
「からだにいいこと」
「NEXT」
「秘伝」etc

~出版物~
「ヨガの生理学」
「ヨガの解剖学」etc